東京高等裁判所 昭和56年(ラ)653号 決定 1981年10月01日
抗告人 人見利一
<ほか二名>
右三名代理人弁護士 大貫正一
同 原田敬三
同 田中徹歩
同 高橋信正
同 藤田勝春
同 一木明
同 太田うるおう
同 安田寿郎
同 藤倉眞
同 山本高行
同 中野麻美
同 岡村親宜
同 小野寺利孝
相手方 クニミネ工業株式会社
右代表者代表取締役 國峯宏保
主文
一 原決定中抗告人人見利一、同菅原フミ子に関する部分を次のとおり変更する。
宇都宮地方裁判所昭和五五年(ワ)第五五三号損害賠償請求事件について右抗告人らに対し訴訟上の救助(ただし、送達費用を除く)を付与する。
右抗告人らのその余の抗告を棄却する。
二 抗告人稲村映子の本件抗告を棄却する。
理由
一 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は「原決定中、抗告人人見利一、同菅原フミ子及び同稲村映子に関する部分を取消す。抗告人らと相手方間の宇都宮地方裁判所昭和五五年(ワ)第五五三号損害賠償請求事件について、抗告人らに対し訴訟上の救助を付与する。」との裁判を求めるというのであり、その理由は別紙抗告の理由記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
当裁判所は本件記録を検討し、次のとおり判断する。
1 抗告人らは、外三〇名の者とともに、現にじん肺に罹患している者もしくはじん肺によって死亡した者の相続人(抗告人らはいずれもこの相続人にあたる者である)として、相手方に対し、債務不履行又は不法行為を理由に損害賠償を請求する訴訟(宇都宮地方裁判所昭和五五年(ワ)第五五三号事件)を提起している者であるが、その主張に照らすときは、同訴訟につき抗告人らに勝訴の見込みがないとはいえないことが一応認められる。
2 次に、抗告人らが民訴法一一八条にいう「訴訟費用を支払う資力のない者」に該当するか否かについて検討する。
(一) 同条にいう「訴訟費用を支払う資力のない者」とは、訴訟費用を支弁するときは自己及びこれと生計を共にする家族にとって通常の生活(勤労者の平均的収入による生活)を維持するのに支障をきたし、そのために右訴訟を追行することが事実上困難となる状態にある者をいうと解するのを相当とするから、申立人の資力の有無の判定については、申立人及びこれと生計を共にする家族の収入によって維持されている場合には、当然にその生計維持の全収入を合算すべきである。そして、わが国における夫婦一般の生活状態に照らせば、申立人とその配偶者とが共に収入を得ているときはその各収入の全額を合算し、また、配偶者のみが収入を得ているときはその収入額により、それぞれ申立人の資力の有無を判断するのを相当とする。従って、右判定にあたり家族の収入を合算することが憲法二四条の規定に違反するとの抗告人らの所論は理由がない。
(二) 次に、総理府統計局の昭和五四年版家計調査年報によれば、同年度における標準勤労者世帯(世帯人員三・八三人、有業人員一・四七人)の全国平均年収は三九一万二、一五六円(月収三二万六、〇一三円)であることが認められるところ、本案訴訟の訴額、特質等を勘案すれば、本件における一般的資力の有無判定の基準金額は、世帯人員四人までの申立人については年収四〇〇万円、また、単身世帯の申立人については年収三〇〇万円とするのを相当とする。抗告人らは、本案訴訟の困難性による訴訟追行に必要不可欠な費用の負担を勘案すれば右基準金額を年収四五〇万円とすべきであると主張するが、本件本案訴訟の原告は、抗告人らを含めて三三名(二八世帯)であり、また、審理の重点は各原告の個別的事項よりも原告全部に共通する事項に置かれるものと認められ、訴訟の追行について必要不可避な費用について各原告の負担すべき均分額はそれほど多額に達するとは思われないので、右主張は採用の限りでない。
(三) そこで、以上の基準に照らし、抗告人らの資力の有無を検討するに、本件疎明資料によれば、抗告人人見利一及び同菅原フミ子はそれぞれ世帯人員数は四人であるが年収四〇〇万円に達していないことが認められ、他に右基準を変更すべき事情のあることは認められないから、右抗告人らは訴訟費用(ただし、送達費用を除く)を支払う資力のない者に該当するというべきであり、また、抗告人稲村映子は単身世帯であって年収三四六万余円であることが認められるところ、前記基準を変更すべき特段の事情のあることを認めることはできないから、同抗告人は訴訟費用(ただし、送達費用を除く)を支払う資力のない者に該当するとはいえない。
よって、抗告人人見利一、同菅原フミ子に対しては、右の範囲において訴訟上の救助を付与すべきであるから同抗告人らの本件抗告はその限度で理由があり、原決定中同抗告人らに関する部分はこれを変更して右訴訟上の救助(ただし、送達費用を除く)を付与し、その余の抗告を棄却することとし、抗告人稲村映子の本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 手代木進 上杉晴一郎)
<以下省略>